アーサおじさんのデジタルエッセイ81
日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進むニューヨークの貿易ビル崩壊のあとの報道で、衝撃だったのはあの「縫いぐるみ」であった。
行方不明の家族を、つまりあの110階分の巨大な瓦礫の下で亡くなった家族を探しに来た人々、とりわけ子供達に赤十字から配られたのが、ピンクや白や黄色の「クマの縫いぐるみ」だった。
子供達は縫いぐるみをしっかと抱きしめながら、相談カウンターを巡り続ける。まだ、硝煙と腐敗の異臭が漂う。
なぜそれが衝撃的なのか。
僕の幼児の頃、縫いぐるみは家族だった。
家族というものは、良くも悪くも気遣う相手ではなくどしどしとぶつかり、皮膚をすり減らす仲間だった。
縫いぐるみは飾るものでなく、"使う"ものだった。
腕も動くテディベアや不細工な面構えのクマ達が棲んでいた。
胴上げをしていた"腕の動くクマ"が"どぶ"に落ちた。
洗っても洗っても臭い匂いが落ちず、やむを得ずごみ箱行きになった。
30年以上たってから、ある日突然「なんで、捨てたんだろう」と深く、深く後悔した。
あのクマは幼い僕を支え、いまでも心に生きている。そのクマの子孫がニューヨークにいるのを、新聞の紙面で発見した。
そして子供達の胸の中で働いていた。僕は会いたいと思った。
いつでも彼等は人の心に空いている穴をふさぐために生まれているようだ。
◎ノノ◎
(−●−)
「 また、お会いしましょう」