アーサーおじさんのデジタルエッセイ582
日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進む 春が来る。「ハナイチモンメ」の童謡のように、前へ出たり下がったりしながら、光の色や眩しさが違ってくるのが判る。
			昨日はマンションのパテオでは、紅梅につづいて白梅の芽が開き始めた。
			まだ雪が降る可能性はあるのかもしれないけれども、鶯の声が聞こえさえすれば、季節にクサビを打つことが出来るはずだ。
			でも何故だろう。
			どうしてそんな進軍ラッパの役割を小さな鳥が請け負うことになるのだろう。
			 ここで、少し想像の連鎖を。
			 人類が生まれたころは、人は4つの季節のただ一つしか生きることが出来なかったそうだ。
			体に毛がもうもうと生えて、服など着てはいないほど、昔のことである。
			 冬のことは、春の人は知らない。
			春のことは、夏の人は知らない。
			夏のことは、秋の人は知らない。
			そんな頃である。
			 冬の人は、次の季節がとても知りたかった。
			いったい、もっと寒い季節なのだろうか?
			それとも少しは楽になるのだろうか?
			もしそうなるのならただ一瞬でも、次の季節を過ごしてみたいものだと冬の人は思った。
			それから季節を超えて生きていけるように祈り始めた。
		

毎日、毎日。
			神様がそれを見て、困った。
			その頃は人にはそれほど長生きをする力はなかったからだ。
			冬の人は、ほとんどお猿に近かっただけだから、あまり賢い手立てはなく、ただ祈るだけだった。
			でもそのことが神様には返って響いたようだ。
			あまり考えたことはなかったが、なんとか春まで生き延びさせようと思ったのだ。
			「よし、わかった」。
			でも実行してみると人の体は弱かったので、初春の温度の激しい変化には耐えられないようだった。
			むしろそのギザギザの刺激変化がダメージを与えてしまった。
			冬の人の体は、あちこちから血が噴き出し始めた。
			それでも冬の人は、もう少し、と耐えた。
			蓄えていたはずの体温は奪われ体は冷たく白くなっていった。
			もうおしまいだ。
			そう思われた瞬間、神様は困った。
			何か方法はないだろうか?
			仕方なく、彼の一部だけを春に送る方法を思いついたのだ。
			 血を吹き、白く変色した体内の一部に力が集められた。
			次の瞬間、冬の人の胸部に変化が起きた。
			小さな心臓が小鳥になって羽が生えた。
			小鳥はゆっくりと体を離れると、芽吹いた木の枝に止まり、紅い血を噴き出し冷たく白くなって、息の絶えた自分の体を見降ろした。
			それから小鳥は、春というものの不思議な空気と幸せを感じて「さー、おきてよ」「はやーく、起きてよ」と歌った。
			 何千年かして、鶯は冬の人だった記憶はなくしてしまったけれども、春になり紅い梅が咲いたり、白い梅が咲き始めると、なんだか懐かしくなった。
			どうしてか分からず、そういう枝々に止まって、「さー、おきてよ」「はやーく、起きてよ」と元気に鳴く習性がついたのだ、と神様が、僕には教えてくれた。
			秘密らしいけれども、ここに書いてしまおう。
			話自体はもう時効らしいからだ。
			               
			              ◎ノノ◎
			              (・●・)
			               
          「また、お会いしましょ」 2012年3月24日更新