アーサーおじさんのデジタルエッセイ426

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第426 スペクトルと地中海 


 セビリアの天気予報は世界で一番高い確率で当る、というジョークがある。
それは全て「晴れ」としているからだ。
地中海の天候は確かに晴天が多い。
しかしバレンシアでは10月は雨が多い。
その上、今年の10月は平均の2.5倍の雨量であった。
朝から晴れていると。
私はいそいそと出かけ、語学学校の始まる11時半ぎりぎりまで絵を描いた。
雨でも、午後から晴れることがあった。
青い空が現れ、近くの空港から飛び立つ白い飛行機が必ず、ナイフの跡のような飛行機雲をつくっていた。
こうして二ヶ月ほどが過ぎると、その気候に体が慣れてくる。
 11月の日本は暗くて、灰色の空であった。
土曜日、JRの駅で空を見上げると晴れていた。
「あ!」私はおどろいた。
「青空の色が違う!」そうなのだ。
中学生の頃、学校の先生が「ギリシアの空は黒いほど濃いぞ」と言っていたのを思い出す。
そんなの嘘っぽい、と考えていた。
地上の空がそんなに違うものか、と。
それから何日か後、これまで長い間考えていたあることに思い至った。
それはこうだ。

 絵を描くと、東京の緑の陰が黒いことである。
どうしてだろう。
バレンシアでは色を発見できた。
それは目のせいかと思ったが、帰ってくるとやはり緑の陰は黒かった。
どうしても理由が分からない。
何か心理的なことだと思い始めた。
黒の絵の具を使わないように心がけたが苦しかった。
印象派の連中はどうしてあんなに色彩を使えるのだろう。
それが謎であった。
しかし、もし空の色(スペクトルの領域)が違うとしたら・・・。
そう、光にシアン(反射光)とオレンジ(直射光)の幅が広ければ、陰は多様な色彩を帯びるのだ。
日本の空は色彩ではなく光彩なので、単一のグラデーションになってしまうのだ。
それは悲しい発見でもある。
東京では印象派の成立は叶わないかもしれない。
 でも、雨の多かった10月のバレンシアで、私は雨天での色彩の調整がかなり出来るようになった。
それを喜ぶしかないのだろう、とも考えている。

             ◎ノノ◎   
             (・●・)

         「また、お会いしましょ」  2008年11月30日更新


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