アーサーおじさんのデジタルエッセイ388
日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進む  海を見下ろす断崖では、帽子が飛ばされる。
			スカートがめくれる。
			ゴウゴウと耳をつんざく強い風がいつも吹いて恐ろしい。
			 大きな二つの空間の間に大きな構造物があると、二つの空間の温度・気圧の差を調整する道として、風の道が出来る。
			都心の高層ビル街を出たり入ったりする時に、この現象が多く見られる。
			これがビル風である。
			 冬が始まり、朝が冷たい。
			ま、なんとかなるとコートを省略。
			地下鉄を出て社のビルに入ろうとした瞬間、背中を押すように風がゴウゴウと圧力をかける。
			静かな晴天だと思った身体は震え上がり、早く中に入ろうと足を急がせる。
			この寒さは、数十年前にも感じたことがある。
		

 その数十年前のころ世間には、内風呂(自宅のお風呂)が少なかった。
			町なら銭湯。
			郊外なら“もらい湯”ということも珍しくなかった。
			小銭を握って銭湯に行く。
			細った木枠の窓は外気を気前良く取り入れる構造の家ばかりで、どこも寒い時代である。
			脱衣場も寒い。震えながら厚着の衣服を脱ぎ捨て、温かいはずの風呂場へのガラス戸を開け、風呂場が目の前に現れた瞬間の凍える背中への風。
			うわあ、と叫び、プルプル震える。ガラス戸をピシャッと閉めた音とともに、冷気の悪魔は去り、ゆるやかに薔薇色の温もりが体を包むのであった。
			あの風とその冷たさ。
			あれは小規模の、今日のビル風と同じものであったのだ。
             ◎ノノ◎。
			             (・●・)
         「また、お会いしましょ」 2007年12月2日更新