アーサーおじさんのデジタルエッセイ367
日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進む 三十年ばかり前、仕事でエジプトに行った。
我々はギゼーの外れで偶然に見つけたよれよれのカフェで休息を取った。
よれよれと言うのは、細い木を何本か立てて、そこに茶色に汚れた布を張って、日よけにしただけのテントのようなカフェであったからだ。
それでも気取って、カルトゥーシュをかたどった枠内に王の名を掲げて店名にしていた。
風が吹くたびにテントが危うく揺れる。
その奥で西洋人のおばあさんがお茶をしていた。
すぐ横に我々は座ったので、目が会うとお互いにニコニコして中途半端な挨拶をした。
そのうち、時間が経つと会話をしている気分になり、質問をしたり、されたりし始めた。
「あなたたち日本人でしょ、分かるわよ」
私が、風で倒れそうになった天蓋に目を奪われると、「素敵でしょう。ここは贅沢なカフェね」という。
店名が王の名だからですか?
「それもあるけれど、ほら黄金色でしょう」
何を言うのかと思えば、そのご婦人は少したるんだ腕を宙に突き出した。
そこにはよれよれに波打つテントを通して降りてくる、太陽の光が、まるで水中のイルカを照らすように震えていた。
そしてその色は古代の王の仮面のような黄金色であった。
人生を楽しむことを知っているな、と私はその婦人に感心した。
エジプトにはよく見えるのですか?と問うと、夫が調査の仕事をしているもので、と答える。
私が名を名乗ると、彼女は「武士」の名ね。と言い、自分は「アガサと言います」と答えた。
私は十分に得をした気分になった。
こうやって、私は6月の贅沢な夢から醒める。
◎ノノ◎。
(・●・)
「また、お会いしましょ」 2007年6月30日更新