木々の影が無彩色になり、黒々としていく。雲をひき潰したような平たい空が間延びしている空間は精気の無い天井であり、しんしんと冷気になって降りかかる。
朝からサッシを少し引き開け、目で外気の温度を測る。一枚のコートがいるかもしれない。と思いながら、ゴミ袋を掴むと、それも忘れてしまう。夜になると、洗面所の床に沈黙が横たわっている。沈黙とは一匹の"亀"のことである。
夏は活動的に短めの手足をバタバタさせて、人影の動きを追うようにアピールする。
彼は声をたてて鳴かない。いや、鳴く。たまに「スピー、スピー」と鳴くことがあり、驚いた。亀の鳴き声か。
結論。彼も鼻が詰まって呼吸とともに音が出ていたのだ。話が逸れた。
沈黙のことだ。夏には激しい主張の主が、一個の黒い石になってゴロンと固まっている。手足を引っ込め、首を引っ込めて石になっている。
ひっそりとして床周辺は淋しい。「おい」と声を掛けたが、返事がない。
そうだ、冬の一部が来たんだ。窓からしのび寄り、洗面所の床に下りてきた。
彼は変温動物に変身する準備をしている。僕は数日前、壁に温度計を仕掛けた。
22度に下がると、彼は"石"になる準備を始める。撒いたエサはふやけてプカプカと水面に浮いている。
静かだ。彼は"沈黙する意志"になる。
◎ノノ◎
(・●・)
「またお会いしましょ」 2000年11月18日