アーサーおじさんのデジタルエッセイ314
日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進む 平家物語だったか、野に晒されている髑髏が語りだすという話があったと思う。
もう涙の出なくなった眼孔から見えない涙を流すのだろう。
誰にでも一つや二つ、語らねば浮かばれない思い出もあるかもしれない。
朝の通勤時で人通りの多い商店街を避けて歩くと、住宅の路地の急な坂道を通ることになる。
その坂道を下から見上げると小さな教会の壁が見える。
ちょうど正面の場所がゴミ捨て場になっていて、いつもゴミの袋や新聞・週刊誌が置いてある。
しかし、そこに闇のように黒い髑髏があってこちらを向いていたのには、ちょっと驚いた。
登り詰めると、そこにあるのは単車のヘルメットであるのが分かった。
しかし、まるで蝋燭でも備えたくなるように黒い頭が鎮座している。
ヘルメットの透明なフードは外れて無いが、その奥に二つの眼孔を持ったゴーグルが目玉を為している。
それはただの不燃ごみでありながら、重い存在として意味ありげに地面に食い付いていた。
黒々とした眼孔の闇はどこかへ繋がるような、そして何かを語り始めるようであった。
風がそよぎ、五月の光が時おり差していた。
「また、お会いしましょ」 2006年5月14日更新