アーサーおじさんのデジタルエッセイ312
日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進む 新築祝いで訪問したMさんの家では旦那さんが待っていた。
学者の彼から山ほどいろんなコレクションを見せてもらった。
この中に一抱えの青い石があった。
ガラスケースの奥。
遠くから見ても、それが「ラピスラズリ」であると思った。
僕は、二万年ぶりに会ったような気分になった。
今でも青の顔料でありうるラピスラズリ。
あの深いウルトラマリンの材料である。
古くはエジプト、ツタンカーメンなどの棺の細工、高松塚古墳の装飾画の青に使われていた準貴石である。
唯一アフガニスタンから世界に顔料、宝石として輸出されてきた。
乳鉢で擂り潰し、媒剤で溶かす。
ほんとうにきれいな深い青が生まれる。
13世紀以降、純度の高いラピスラズリは金と同じ値段で取引されたと聞く。
色素を持つ鉱物は不思議だ。
見ているだけで、目が醒める。
冷たい無機物のくせに、その色彩は胸の奥に届いて、遠い記憶や悲しさに響いていく。
ラピスラズリの力は人間が海に住んでいた頃、何度も目をつらぬいた色のせいだろうか。
その折り重ねた深い生命の記憶が曝されるのか。
またその奥には宇宙が広がっていて、誰それの生命や、そこらの神さまなどを超えてしまう。
ウルトラマリンとは「海を超える」意味であり、ラピスラズリ(青い石)は天空の破片とも呼ばれている。
顔料というものは、生まれながらにして「人の心の謎」を開く鍵なのであると思う。
「また、お会いしましょ」 2006年5月1日更新