アーサおじさんのデジタルエッセイ297
日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進む まるで写真を撮るためだけに人が並んでいるような場所がローマにある。
		
小さいが有名な教会で、玄関横に「真実の口」という古い大理石の彫刻があるからだ。
		
そこに配給品でも受け取るように人が列を作る。
		
あのオードリー・ヘップバーンとグレゴリー・ペックにあやかるためだ。
		
よく考えたら、確かにオードリーとグレゴリーは何度も撮影のテイクごとにこの石に触れたのだ。
		
オードリーの手のひらと自分の手のひらが古代の記念物を介して触れ合うのだ。
		
人は期せずして、多くの重要な人物と間接的に触れ合って気付かないのかもしれない。
		
 ある日、ミュージシャンの財津和夫さんとの仕事をしていて、突然彼が私に言った「これ、ポール・マッカートニーから貰ったギターなんです」私は大変驚いた。
		
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経緯を聞いたあとで、その場に居合わせた特典で訊ねた。
		
「ちょっと触らせていただいてもいいでしょうか?」すると、いとも簡単に「はい、どうぞ」と手渡されてしまった。
		
ピカピカ光ったきれいな赤いギターだった。
		
両手で支えて弾く格好だけすると、一分ほどで震えが来て、もう結構ですと返した。
		
「どうしたんですか?」「恐くて」とてもそれを預かっていられる立場とは思えなかったのだ。
		
充分であった。
		
こうやって名誉な事件が僕の心に刻まれた。
		
なんらポールとの距離が変化したわけでもないのに、特別な感じが残っているのは一体なぜだろう。
		
人は手を通しながら、しかし、心でものを見るのだろうか。
		
                
			
		
「また、お会いしましょ」 2006年1月15日更新