アーサおじさんのデジタルエッセイ298

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第298 雪原の聖夜


突然の消化器系の不調で、何も食べる気がしない。

腹痛と下痢。

悪寒。

このごろ、巷には鳥インフルエンザやノロウイルスの話題がかまびすしい。

午後から休んで何も食べずに寝る。

二日間ほど、飲み物だけで絶食に入った。

夕方になってから医者に行く。

それがよかった。

医者も正解ですね、と言う。

次の日も絶食。

薬とスポーツドリンク、ほうじ茶のみで過ごす。

昼飯に誘われても断り、周りの者がぼりぼりと菓子をつまむ午後三時も見向きもせず。

一日がシンプルに過ぎていく。

なんとまあ、世間にはグルメといって食物に溢れているのだろう。

昼間は誰もが「何かうまいもの、食いに行こう!」と頭の中を匂いと味で埋め尽くす。

コンビニにはチョコレートやおかきなど目まぐるしく派手に並んでいる。

夜は食べ物屋のネオンが脳を刺激する。

そんなものを外すと、世界は静かで穏やかである。

これまで囚われていた、色彩が消えたように静謐である。

昔は、世界は静かであった。

子供達は夕方に帰る家で名前のない食事を、頭ではなく胃で食べていた。

外には風景しか無かった。

私は、いつの間にか雪景色を思い浮かべ、その深い雪の木々の間をさくさくと歩いている気分になる。静けさは体を揺さぶらず、自然な覚醒を保ってくれる。

人が人になりたての静かな聖夜の雪原である。

元気になったら、再びあの原色のネオンの喧騒に帰っていくのだろうかと不思議になった。

                

             ◎ノノ◎
             (・●・)

         「また、お会いしましょ」 2006年1月21日更新


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