アーサおじさんのデジタルエッセイ287
日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進む夜の高層ビルの窓から見えるのは、敷き詰めた黒い寒天の平野。
穴がいっぱい空いていて、そこから針のような光線が発せられる。
宝石の針。トウモロコシのように立ち上がった黒い建物は、ハーモニカのように階層に分かれた内側から光が放出される。
少し先に、暗黒の地域が横たわる。
このブレードランナーの未来世界のような空間にも、光が死んでいる場所があるのだ。
そこは皇居に違いない。ということは、江戸の時代から開発されない手付かずの森ではないだろうか。
あるいはもっと昔から・・・。
私は江戸城がそれ以前になんだったかは知らない。
おそらく、誰かの所領で城があったのだろう。
その前は単なる森であったに違いない。とすれば、相当昔からの自然地帯なのではないか。
安藤広重の「江戸百景」の中に、確か「狐火」という一枚があった。
おどろおどろしい暗い森の坂道に狐達が寄り添い、火の玉を浮かしている。
これが江戸時代の東京の風景である。
しかもよく読むと、御茶ノ水・聖橋あたり、とあったはずだ。
それに驚いたことを思い出す。
信じられない変わりよう。
当時、江戸は巨大都市といわれたが、それでもそんな風景は当たり前だったのだ。
あの黒い皇居の森には江戸時代以前からの古狐が眠っているかも知れない。
頭部は禿げ上がり眉間に百千もの皺を寄せ背中は緑色に苔むして、息を潜めている。
それも大都市の幻想である。
「また、お会いしましょ」 2005年11月6日更新