アーサおじさんのデジタルエッセイ261
日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進む包丁で半分に切ったふかふかのアンパンの写真があった。
		
要するに、断面写真であった。
		
わたしは何か胸を打たれた。
		
郵便受けに投げ込まれたフリーのシティ・ペーパーのそのページを切り抜いた。
		
小さめの東京ドームのような形をした部屋があって、その下に黒い小豆の餡子がばらばらに折り重なって並んでいる。
		
なにか切ない。
		
その隙間はいささか唐突である。
		
パン粉をイースト菌と混ぜて練った時には、餡子と生地の間に隙間は無かったはずである。
		
しかるべきプロセスを経て、あの天井が持ち上がり、ドームの空間が出来上がった。
		
柔らかな構築物が生まれて「アンパン」となった。
		
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いつか、南京豆が殻の中でからからと鳴るのがいとおしかった。
		
あの豆同士の揺らぎと遊びのような殻の中の空間はいつ出来たのだろう。
		
遠く中国大陸の南京で、生落花生が火で焙られ、紫色の煙を上げながら、互いの豆は離れ離れになった。
		
貨物船に揺られ、小さな小窓を通して互いの頭をぶつけながら、日本に着いたのだ。
		
僕らの歯はドームの上空から振り下ろされ、屋根を突き破って、小豆の群衆に食い立つ。
		
そうしてドームは食いちぎられていく。
		
もぐもぐ。
		
うまい。
			
			
		
「また、お会いしましょ」 2005年4月29日更新