アーサおじさんのデジタルエッセイ254

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第254話 失われた裸


ホームへ降りる階段で、私の横を小さな影が横切った。

すごい速度で駆け下り、最後の三段をピシンと飛び降りて走り去った。

制服を着た女子中学生のようだ。

見事なアクション。

私もあんなことを出来る時代があったのだ。

あんな衝撃に耐える体をしていたのだ。

今はなにやかやと足が痛む。

昨日も田舎を十キロほど歩いたら、膝が痛む。

よしよし我がヒザよごめんごめん。

時々は靴を履いていることだけでも足が嫌がることもある。

脱いで暮したくなる。

人の身体の中でも足だけに牛皮の厚い鎧を装着し、紐で綴じ込めて一日暮すというルールがこの社会にはある。

どうしてだろう。

それもぴったりの隙間なし。

皮膚呼吸も出来ない締め付け。

昔、東京でオリンピックがあった時、マラソンで優勝したのはアベベという人。

42.195キロの都市を裸足で走った。

あれが自然の走りかも知れない。

その後のマラソンは何センチもの厚さのあるシューズを履くから、自然走のレースとは言えないのかもしれない。

自然の身体は失われていく。

いま世界は裸で歩けない。

それは寒いからか、危険だからか、恥ずかしいからか。

もうなぜかも、よく分からないほどだ。



             ◎ノノ◎
             (・●・)

         「また、お会いしましょ」 2005年3月13日更新


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