アーサおじさんのデジタルエッセイ231
日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進む夜、マンションの暗がりの通路に子ネコがしゃがんでいる。
近づいたけれども逃げない。
こちらに関心はなく、にゅにゅっと細い腕を伸ばして何かを追っている。
私は邪魔をしないように端を通る。
ピチピチと動く仕草は必死である。
小さな黒い虫を孫の手のような肉球で追いかけ、パシと押さえたようだ。
しかし「あれ?どこに行ったのか」?と前後を見回している。
虫は足元の金属の溝に逃げ込んだのだった(まだまだ、見習いのネコなのだ)。
朝、いつもより早い時間に出てしまうと、エレベーターに小学生が乗り込んで来る。
初めてだ。
「おはよう」。「おわよおざいまあ」と小さな声で返事。
彼はぴたとエレベーターの扉に向き直る。
私は彼のランドセルを見下ろしている。
過ぎて行くフロアーが扉のガラス窓ごしに走る。
やがて1階のフロアが見え、扉が開こうとするその時、私はなにかが伝心されるのを感じた。
「子猫!?」それは子猫に似たエネルギーだった。
開き掛けた扉に彼の隙間が生まれるやいなや、小学生は発進した。
そうだ男の子は走るのだ。
ほんの少しの距離も、歩くものではなく小学生は走るのだ。
エレベーター内の静止状態など内燃機関には我慢ができないのだ。
彼らの細胞はいつも爆発していて、すごい速度で世の中を吸収しているのだ。
「また、お会いしましょ」 2004年9月25日更新