アーサおじさんのデジタルエッセイ220

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第220話 隅の無い重箱


昭和の半ばから見ると、日常生活は変わった。

冷蔵庫が生まれて、アルミサッシが出来て、家が密室になった。

食品がすぐには腐らなくなって、室内の食器類も変化した。

その頃は御飯も炊いたものはお櫃に入れて布巾をかぶせた。

おかずは網棚に入れておいてもその日のうちに食べねば危険であった。

御菓子は暗いデパートの地下の食品売り場にあった。

ここは子供と婦人の好きな場所。

ピンボールのように並んだガラス棚の中に、菓子が投げ込んである。

袋詰めではないから、何グラム、あるいは幾ら、と注文することになる。

白い布を頭に巻いた店員が園芸のスコップでそれを掬い、紙袋に詰めてくれる。

ちょっと良い菓子は家に帰ると、漆の菓子器に入れて仕舞われた。

これは刳り抜いた木を内側を黒、外側を赤の漆で仕上げ、貝の螺鈿を少々施した、いわば重箱である。

ただし全体は碁石のように丸い形をしているので、隅がない。

重箱の隅をつつくことは出来ない。

やはり丸い蓋を閉めてしまうと、中になにが入っているか分からない。

家に帰り着いた子供がこの蓋の下の秘密に胸をときめかせる。

一枚の古い写真がある。コタツで子供が頬杖をついている。

炬燵の上には菓子器がある。

その中には何が入っているのか?

これは当時の「しあわせ」の象徴である。


             ◎ノノ◎   
             (^●^)

         「また、お会いしましょ」2004年7月4日更新


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