アーサおじさんのデジタルエッセイ219
日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進む蓑の衣を被った大男のような灰色熊がゆっさゆっさと体を揺すり、大きな爪を振り鳴らしながら餌を求める。
あの熊に襲われたりしたら、どうだろう。
尾瀬でも先日、二人が襲われ大怪我をした。
マヨネーズが大好きで民家を荒らす山の熊は住人の恐怖の的である。
昔、クマは力と包容力を豊かに持った土の化身だった。
森を守り、森に生き物の種を運び、皆に慕われた。
見知らぬ外敵がやってくると、苦も無く追い返してくれた。
ある時、邪悪な他の森の黒い妖精が彼の存在を妬んで、破滅させる計画をたてた。
夜中にか細くすすり泣く声を聴かせたのだ。その声は切なくて、なにか救いに行かなければならない気持ちを起こさせたのだ。
クマは起き上がり、声の方角へ進んだ。しかし、いつまで歩いても声は遠ざかる。とうとう峠を越えて、峻厳な岩場の峰まで来てしまった。
黒い妖精は、彼が危険な足場に立った時、すさまじい突風を差し向けたのだ。
岩場はいっぺんに崩れ始めた。
クマは自分が死ぬわけにはいかないと、踏ん張ったが、足はもうバランスを崩していた。
彼は全身全霊を声のする方に集中させ、やむを得ず、彼の筋骨隆々の体と、優しい魂を分離した。
彼の肉体は暗がりへ、魂は反対側へ墜落したのだった。
そのせいで、いま、熊は恐ろしい山の獣となり、「くまの魂」は優しく人の子供を癒す力を持ち、成長した大人にさえ愛される形象になった。
月の明るい夜の森で時々、クマはその分離した魂を懐かしんで、銀色の涙を流すことがある。
――――そして「くまの魂」は、そんな事を知らない舌の回らない幼児に揉まれながら「くまちゃん」と呼ばれ、子供達とベッドでまどろんでいるのです。
「また、お会いしましょ」 2004年6月27日更新