アーサーおじさんのデジタルエッセイ208
日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進むいつも感心、ほれぼれすることがある。隣の駅から乗り込んでくる、ある女性。
盲人である。乗り換えを含め、7つ目ほどの私と同じ駅で降りる人である。
いつも誰の手も借りずに、躊躇なくスタスタと、ホームを横切り乗り換える。
そして、降りた駅では長い長い地下道を常人と同じ速度で、大勢の人を掻き分けながら、JRの階段の方へ登っていく。
乗り換えホームで声を掛けたこともあるが、ほとんど必要がないと分かった。
無駄のない行動で迷った風もない。
真っ直ぐ進み、必要な距離を進むと、さっと方角を変える。
騒音の中、どうやって電車や方角を見分けているのだろうか。
人の足音、風、アナウンスの響きで感じ分けるのだろう。
彼女を見ると、今はそれとなく見守る程度である。
でも、その日は少し違った。
降りた駅で、いつもなら切り抜ける巨大な柱にどん、とぶつかった。
あ、と思った。
でも朝の駅の群集の中である。
誰も気付かない。
ひるまず柱をかわすと、次の柱にぶつかる。
白い杖を音高く響かせながら、ジグザグになり始めた。
こんなことはなかった。
でも決して歩く速度を落とすことはなかった。
壁のほうに向かう。
また柱に肩をぶつけた。
僕は彼女になんともいえない「不調」を見た。
そりゃ、そうだ。
健常者の我々と同じように、不調はある。
今日は空間が切り取れないのだろう。
風が読めない。
誰だって『完璧』ではないのだと、いまさら当たり前のことを感じたのだ。
「また、お会いしましょ」 2004年4月11日更新