アーサーおじさんのデジタルエッセイ206
日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進むその人は、随分以前に芥川賞を受賞してデビューした人で、有名な作家である。
受賞当時は、セーラー服が似合いそうなはにかんだ姿が印象的で、「A賞始まって以来の美人」とささやかれた程であった。
わたしは二度、彼女に仕事で会う事があった。
女性らしく気弱な感じが印象的であった。
しかし、気弱ではないことはその作品から知っていた。
自分がその気になれば、なんと言われようと、誰かを傷つけても愛を奪うことの出来る、あるいはそれを求める人であった。
微細な表現描写にその残酷さを書ける人であった。
書ける―――やがて、それを書くために、愛を求めているのではないか、という面も伺われた。
そして、それを自覚しているという文章もまた、文学的であったと言える。
この“人物と作品のギャップ”がある種の謎を醸し出していたのだろう。
しかし、しかしである。二度目に会った時、彼女は「おとな」になっていた。
はっきり言えば「おばさん」であった。
それは少し太ったからというのではない。
ホテルのロビーでソファーに反り返って「アンタ、一度会ったこと、あるねえ」と話掛けてこられた。
私はニコニコしながら、「はい、その通りです」と答えた。
最近、新聞でそのお顔を見つけたが、写真は気弱そうな「昔の表情」で登場されていた。
「また、お会いしましょ」 2004年3月28日更新