アーサーおじさんのデジタルエッセイ204
日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進む「秘密の花園」という小説がある。古いドアの向こうに美しい花園があるのだ。
それを知っているのは、少年と少女。人は大人になった時、そういう秘密の世界を失ってしまうものらしい。
渋谷のデパートをウロウロしていると、何かが呼ぶ。
何かあるなと思うと、以前も出くわした特別催しの古本市をやっている。
ああ、これか。そう思ってエスカレーターを上がる。
そういえば探したい書物もある。売り場にざっと目を通した時、トイレに行きたくなった。
売り場の階のお手洗いは『清掃中』の札が掛かっている。
後にしようか。
そう思って売り場に戻った時、壁に『トイレはこちら』の張り紙が不思議な方向に向いている。
「おや」と思うと同時に何かしら惹き付けられた。
それは、予想もしない壁づたいに知らないドアに向かっている。
そのガラスのドアに手を掛けた時、限りなく抽象的な懐かしさに触れた。
そのドアは小振りで、外気の輝く屋外に通じている。
そこは『デパートの屋上』だったのだ。
ベンチがあり、「こどもランド」があり、電気自動車が放置され、「犬・猫・熱帯魚ショップ」の看板が見える。
子供などひとりもいない。
足下は曲がって木目の浮き出たフローリングである。
すべてが狭く小さく感じた。
店員の姿など見つからない。都心の廃墟のようだ。
こども達はどこか遠くのゲームセンターに集まっているだろう。
ここに集まるものは、昭和前期の子供の過去の記憶だけだろう。
それは夢のような、幻のような空間であり、風が吹くと消えてしまうのではないかと思われた。
アイスクリームを嘗めた時のような、ささやかな不思議さに触れた思いであった。
「また、お会いしましょ」 2004年3月13日更新