アーサーおじさんのデジタルエッセイ163

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第163話 電車の手すりの温もりに


もう、夏が近いかもしれないが、それでも朝はひやっとする。

冬なら、朝、マンションを出た時の首筋への冷たい一触れに驚く。

地下鉄の入り口へ下りる時の季節ごとの身構え。

つまり、寒い時には、手袋を外すことが出来る。

暑い夏は、それなりの覚悟。

これは自然が少ない都会では重要な季節の変化の兆候である。

−−−ずっと気になっていたこと。

それは電車の入り口付近のスチールの手摺りのこと。

ある冬の日、次の駅で外へ押し出された。降りる客が済んだあと、慌てて電車に乗り込んだ。

さっきまで別の人がつかんでいた手摺りを握った。

熱かったのだ。

冬の日に、温かかったのではなく、熱かった。

僕の手先が冷たいのか。びっくりして火傷をするのかと思って、一瞬、手を離しそうになった。

電車は動いた。

ぐっと握る。

誰だったのか?さっきまでここにいたのは?すぐ傍にいたではないか。

駅で降りたのか?それとも電車の中にまだ居るのだろうか?

僕は指をずらしてみた。ちょうど手の幅だけが熱いのだ。

すごい事だ。

これだけ冬の銀色のスチール・パイプを暖める人がいるのだ。

男性?女性?いつの間にか僕はそれをひたすら、人間の遺言のように、生命の名残のように感じながら男女のどちらかが気にならなくなっていた。



             ◎ノノ◎
             (・●・)

         「また、お会いしましょ」 2003年6月1日更新


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