アーサーおじさんのデジタルエッセイ135
日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進む朝のトロ箱
昨日の電車は混んでいた。スチールパイプに「むぎゅーっ」と押しつけられ、「いてて」と思っても、そのまんま戻らない。
足は靴と靴の間に挟まれもがいている。
後と左右の男達の胸が骨まで押しつけられて、その生体の弾力性の限界に達している。
すると人間のボディも柔らかな物ではなくなり、ほとんど凍りついた冷凍マグロのように塊となって、詰められ変形し合う。
けれど、人間は呼吸をするので、その度に胸郭を広げなければならず、息を吸い込む度に、『イテテ・・、イテテ・・、』と体は繰り返しスチールに食い込む。
背広や下着の厚みは無くなり、ほとんど直接に肉体が触れているような圧力。
呼吸と共に男の胸郭や肺胞の空洞が眼に見えてくるようだ。
僅かな他人の動きを拾う、自分の肩・腕の筋肉。電車がちょっと揺れても、遠いはずの端っこの人の動きが「ぐい」と持ち込まれる。
『鋼鉄のトロ箱』はもうこれ以上詰めようがない。
大きなトロ箱だなあ。
マグロは築地から運ばれるが、僕は築地に向かって運ばている。
僕はブリやマグロの内臓を思い浮かべる。
それをサバいた後のぽっかりとした赤い空間を思い出す。
「また、お会いしましょ」 2002年11月10日更新