アーサーおじさんのデジタルエッセイ566

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第566 「紙に書いてくれ、覚えられない」


 イタリア映画で見た。
古い時代のノスタルジーが感じられる映画である。
父親が死のうとするベッドに家族や親せきが集まる。
それだけならまだいいが、それを聞きつけた近所のおばさんや老人が大勢集まって並ぶ。
なにをするかと言うと、ひとりずつ伝言があるのだ。
「あっちへ行ったら、ばあちゃんにみんなは元気だと伝えてくれ」
「ジョンに私が愛してるよと言ってたと伝えて」
「必ず死んだ息子に会って、叔母さんはどうだったか聞いていると言ってね」
「祖父さんにあの土地の権利証がどこにあるか聞いておくれ」
 その列はえんえんと続く。

 息も絶え絶えな父親は、喘ぎながら、「紙にぃ、書いておくれぇ、覚えられないよ」とうめいている。
 こんなに頼まれたら大変だ。紙に書いてもらいそれを持参しなければならない。
 さて、えーとメモ、メモ。紙はちゃんとあっちまで届くのだろうか?
 あれ?、見つからない、とか言って戻ってきたら困るだろう。
「なんだい、ばあちゃんには会えたのかい?なに、まだ、早くしてよ!」
「祖父さんは何て言った?分からない?お願いだから、ちゃんと訊いてよ」
 やあ、ごめん、ごめん、今行くから・・・。
 近所付き合いも大変だ。
とはいえ、こういう場面は人生が何であるかを、少し表わしているようでもある。
少し生き延びても、生き延びなくてもそんなに違いはないということだ。


               
             ◎ノノ◎
             (・●・)
               

         「また、お会いしましょ」 2011年11月19日更新


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