アーサーおじさんのデジタルエッセイ362
日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進む 近所の床屋の主人が犬を買った。
			気の毒に彼は、親を失ったあと、奥さんと子供に去られた。
			経緯を聴けば、彼のせいとも言えないのだが、複雑なのでここでは省こう。
			調髪用の新しい椅子を購入したばかりで一人になった。
			お客が殺到するほどでないので、一人でやっていくことにしたようだ。
			再婚という雰囲気でもなく、機会もないのか、本当に淋しそうであった。
			私はそれ以前からそうであったように、ほとんど一方的に彼の話を聴くばかりであった。
			ただ、頷く時に、顔を動かすのをためらった。
			ハサミがシャキ、シャキ、と動いているのに、頭も振ってもいいんだろうか?
			 ところが、ある日そこに犬がいた。
		

なんとも本当に可愛い子犬であった。
			彼は何年も掛けてインターネットで探していたのだそうだ。
			「毎晩、遊んでくれとうるさいんです。朝と昼は一時間以上の散歩をします」まるで、孫の話をするように、困った、困ったという感じで、話題は固定していった。
			確かに、夕方に通りで見かけるその犬は、星の王子様のように美しく愛らしかった。
			床屋の主人は一人で情熱をもって育てているのが分かった。
			 しかし、ほんの半年もした朝、住宅街の曲がり角で出くわした。
			一瞬なので彼は私に気付かなかった。
			でも、気付かなかったのは私だろう。
			私は彼が別のヌーボーとした、ややマヌケな犬に激しく引かれて、あせって歩いているのを見た。
			通りすぎてから、あれは床屋の主人。
			では一体どうしたのだ?と訝った。
			しかし、あの犬こそが一気に青年になった「星の王子様」なのだろう。
			成長というものは、一筋縄ではいかないものなのだろう。
             ◎ノノ◎。
			             (・●・)
         「また、お会いしましょ」  2007年5月26日更新