アーサーおじさんのデジタルエッセイ340

日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進む

第340 小さくて、大事でもない記憶のかけら


 これはオフィスでの話しである。
毎度、毎日、トイレの壁を眺める。
オフィスであるから、当然靴のままだし、ネクタイも締めている。
勤務時間であったり、なかったり、とはいえ勤続何十年ともなれば結構長い時間をここで過ごしていることになる。
ここでは扉を閉じてひとりである。
当たりまえだが、ひとりであれば感覚器官もややリラックスしているのだろう。
ふと、何かにつながっているような気がする。
つながっているのは、これまでの長い?人生を、狭い空間で過ごした際のバラバラでつながりのないはずの様々な時間である。
もちろん小さい頃からであればトイレだけではない別の時間も含んでいる。
その中に、寝室の天井板の模様や染みも浮かびあがる。
相当に小さな頃だ。
3歳から4歳。

その頃の天井板をよく覚えている。
頭から衣を被ったネズミ男のようなだらだら流れる派手な木目模様と節穴。あちこちで同じ模様が見える。
あれはベニヤ板の印刷で出来た模様だったのだろう。
 そのうち4センチほどの小さな白い月型の模様が浮かぶ。
これは三年ほど居た支社の人工石の床にあった模様。
いつも座ると目の前に見えた形である。
今ここで絵に描いてみせることもできる。
こんな記憶は、だれとも共有できない。
できないのだが、ある程度、僕の人生で感覚的な比重を占めている。
それは消えていく。
僕が残さないと消えていく。
でも残したとて何になると言うのか。



             ◎ノノ◎。
             (・●・)。

         「また、お会いしましょ」 2006年12月17日更新


日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進む