アーサーおじさんのデジタルエッセイ322

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第322 攻撃への装填


 朝のカフェ。セルフサービスのコーヒーでクルミパンを齧っていると、並んだ丸いテーブルの三つばかり向こうでは、黙々と書類を読んでいる女性がいる。
余裕なくというでもないが、がつがつと戦車のようにファイルをめくり、目を通している。
今朝から始まるプレゼンテーションか、セールスの下準備なのだろうか。
何冊かのファイルを取り替えては目がチェックしていくのが分かる。
付箋なども貼ってあるカタログも加わって、一式をバッグに放り込む。それから立ち上がる。
上下とも黒のスーツである。

食べ終えた紙屑とコーヒーカップのトレーを返却棚に返す。
それからまた戻ってくると、先ほどの丸いテーブルを紙で拭きあげ、その上に何本もの筆記具、計算機、携帯電話、名刺入れ、財布、そして何かのケースを並べ、点検してひとつずつ、黒い上下の体に収納し始めた。
それは凛凛しく、尊厳がある。また、正確に言えば、収納ではなく、装着と装填であった。
武器と通信機と弾丸を軍服に装着しているのであった。
果たして敵を撃ち落すことが出来るだろうか?
 それから、座っていた椅子を許に戻し、ついでに周囲の椅子をその位置にきれいに揃えた。
反対側のテーブルの椅子さえも、である。
この動作が習慣的、機械的に、周囲の客を一切気にすることなく行われた。
彼女は長い間「店舗の接客業」を経験した人である。
テーブルと椅子の整備は彼女の無意識に入っている。
                

             ◎ノノ◎
             (・●・)。

         「また、お会いしましょ」 2006年7月23日更新


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