アーサおじさんのデジタルエッセイ269

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第269 パラオ


 いつか行くかもしれないが、まだ行ったことのない国はファンタジーの一種である。

時おり触れるわずかな情報――例えば、美しい航空写真の一枚が、ファンタジーの世界への地図となる。

それは現実の国でありながら、まだ現実ではない。

僕という人生の中では、まだもやもやしているそのファンタジーの方が真実として頭や体に君臨している。

 青い海のテーブルにモコモコと投げ出された鶯饅頭のような珊瑚礁の島々。

珊瑚礁はたしかに、果てしない海原の夢の浮島であり、ダイオードの光輝くネオンの卓袱台である。

その浅瀬で泳ぐとき、人はクリオネのように青く輝く。珊瑚のプールには縁がなく、いくらか泳げばその浅瀬に歴史の名残を沈殿させている。

蒼褪めた戦車や、プロペラの曲がった戦闘機が目をつぶっている。

時間の経過は珊瑚の厚みでわかる。

血管のようなヒトデが揺れ、蛸のような三葉虫は四十年も前から鉄カブトの殻に同化している。

そっと泳ごう。ゼロ戦が目を覚ますと、プロペラが回って、白い砂が舞い上がる。

一面、サハラの砂嵐になって水晶の光が粉々に飛び散る。

きらきらしながら逃げるのは小骨の多いトロピカルフッシュ。

うまく皮を剥いで、集めて溶かせば、蛍光色の絵の具が作れる。

 白い砂も貝殻も、人の骨だったか、なんだったか、僕の頭の中でニューロンと混じり始める。

あとは浜辺で夕方の風を受けながら、誰かのおしゃべりに耳を傾ける。

青い海原、丸い珊瑚礁、白いテーブル。三つの同心円である。


             ◎ノノ◎
             (・●・)

         「また、お会いしましょ」 2005年7月3日更新


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