アーサおじさんのデジタルエッセイ264

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第264 書いておきたい水盤のこと


 山手線のE駅に着くと、駅の改札口横のハンバーガーのカフェに入る。

五月になると片側のガラス壁が開け放たれて、オープンカフェになっていた。

さわやかな風が吹き込んで、つい外の方を見ながら時を過ごす。

通る人もさまざまに格好よく、シャラポアかサンドラにも似た外国人が横文字の本を読みながらコーヒーを飲んでいることもある。

若葉の街路樹が揺れた。すると、その美しい緑色が視界の下のほうでも共振して揺れた。

楕円形になった小さな池があるのか。

いや、銀色の水盤に映ったのだ。

昔、お寺やお屋敷の玄関先に手水や水盤が置いてあって、そばの植物の緑色を映していたことがあるのを思い出す。

中には朱色の金魚が泳いでいたはずだ。

 しかし、E駅には水盤は無かった。

一瞬、何があるのかと思った。

それは、このカフェの銀色のテーブルであった。

その楕円形が揺らぐ街路樹を映していた。

それは古井戸の入り口のようにその奥に、もうひとつの世界がひそんでいることを教えているようであった。

手を洗う水もなく、金魚も泳いでいない偽物の水盤でも、異世界の存在へいざなうには十分である。

             ◎ノノ◎
             (・●・)

         「また、お会いしましょ」 2005年5月28日更新


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