アーサおじさんのデジタルエッセイ247

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第247話 海辺のリンドバーグ夫人


美しい文章というものを見た記憶は、ちょうど美しい風景や風に出会い、美しいひとに出会ってしまった経験に似ていて、あとあとまでも尾を引く。

そして、何年も過ぎ、もはや言葉も内容も忘れてしまっても、せいぜいタイトルを覚えていればまるで愛している感情のような確証が浮かびあがる。

もしかしたら、タイトルが重要なのかも知れない。タイトルの美しさが器となって、溢れそうな印象を掬いとめているのかもしれない。

ここに二つのタイトルを挙げればよく分かる。

中勘助の『銀の匙』。

スウェン・ヘディンの『さまよえる湖』。

前者に至っては、全く内容は思い出せない。

しかし美しさへの驚きは凍結保存されている。

後者は、一行一行に溜息をついた。そうだったのだから仕方がない。

そして、昨日、リンドバーグ夫人の本を読んだ。

『海からの贈り物』。

うすっぺらな文庫本。

しかし既にタイトルが暗示するものがあった。

驚くほどの美しい文章であった。

美しいとは飾りのことではない。

私たちが言い得なかったことを、こんなに明瞭に見える造型にして表わしている。

その驚きである。

そうだ、そうだから、私たちは悩んで生きているのだと教えてくれる。

現代の女性がどんな境遇にいるのか、神様のように分かっている。

そして、リンドバーグという名が、鈴をつけた小鳥が飛翔しているように感じるのは不思議な感想だろうか。



             ◎ノノ◎   
             (・●・) 

         「また、お会いしましょ」 2005年1月23日更新


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