アーサおじさんのデジタルエッセイ234

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第234話 駆け抜けるホームレス


朝、人々が通り抜ける駅の通路で、壁際にしゃがみ込んだヒゲだらけのホームレスのおじさんが、じっと文庫本を読んでいた。
通り過ぎざまに、縦に並んだきれいな活字の列までよく見えた。ふと考えた。

−−人間は「幻想の世界」に生きている。−−

偉人や達人の誰もが言う。
読書をしなさい。
沢山の本を読みなさい。人生が豊かなものになる、と。
不思議だ。
動いて経験を積むこととは別に、読書が豊かな人間の条件になっているのだ。
人は座ったままで、遠い国にも、過去・未来にも、見知らぬ人の心の奥地にも旅することができる。

ジュール・ベルヌは、父親の圧迫から隠れて、禁じられても本を読み、想像の世界に生き、とうとう想像の力で世界にその名を知られることとなった。
そのほとんどが空想で生み出された世界である。
想像力がそのまま力になる世界は、幻想=現実の世界に違いない。

現在の彼(駅のホームレス)は、不遇の境遇である。
でも本を読むということ、このプロセスは平等である。
幻想を収獲している事実は平等である。
一冊の文庫本は誰にとっても一冊の文庫本に違いはない。
この世界を征服するのには彼その一行一行をいかに読みこなし、いかに身につけるかに掛かっている。

−−とはいえ、本当にそうであろうか?



             ◎ノノ◎
             (・●・)

         「また、お会いしましょ」 2004年10月16日更新


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