アーサおじさんのデジタルエッセイ227

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第227話 ひとでの海


夏の海は暴れん坊の青年のようで、見ていて気分はいいが、どこか危なっかしい。

ざわざわ騒いで、人を呼びつけたり、勝手に踊ったりと忙しい。

機嫌が悪くなるとにわかに暗くなり、灰色に顔色を変えて、ゴロゴロと音をたてることがある。

白い歯を剥き出すのは、威嚇したいのか、あるいは笑っているのだろうか。

こんなに大勢に見つめられては、ちょっとばかしパフォーマンスを考えざるを得ないのかもしれない。

ひと夏が終わるころには、磯辺には打ち上げられた幾つもの小さな人体が横たわっている。

赤く焼けた肌。ただれて荒れた鮫肌。荒波に飽きてやっと岸辺に泳ぎ着いたその姿は四肢を広げて疲れきっている。

ひっくり返すと岩場に吸い付く繊毛が蠢いている。

ヒトデは、その昔、海から陸地に移転しようとしている人類の祖先を表現している冗談好きのまじめな演技者のようである。

その点で僕は彼らを尊敬していて、いつも感心させられる。

堤防の上で蒸され干からびて、魚の匂いがする。

太った猫がその誘いに乗ってやってくるが、あまり好物ではないらしい。

その点でも冗談ぽくって感心する。

「大丈夫だろうか?」と海水に返しも、「よけいな事するな!」とばかりに、塩水に揺れているだけである。


             ◎ノノ◎
             (・●・)

         「また、お会いしましょ」2004年8月21日更新


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