アーサおじさんのデジタルエッセイ225

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第225話 こんにちは、『悲しみよこんにちは』


朝早めに出て、ビル街のカフェでコーヒーを飲む。

ガラスの外側のオープン・テーブルではひとりの若い女性が全身のネジを緩めたまま、疲れた表情で遠くを見ている。

風が街路樹の葉を揺らしている。

一日は始まっているが、人のリズムはエンジンのアイドリング中のよう。

気を取り直して女性は鏡を出す。

お化粧の仕上げに入る。アイライン、マスカラ、タオルでシャドウを調整。

人はどうして、いつから、頑張って働かねばならなくなったのだろう。

自分の意欲とはさほど関係なく次から次にシナリオが与えられるようになったのだろう。

好きなことをしていては、生きていけなくなったのだろうか。

サガンの「悲しみよ、こんにちは」というタイトルを思い出す。

なんだ、もう50年も前にフランス人が通過したことだったんだ。

美しい高層ビル街の風の下のカフェで、将来の心配をしなければならなくなった私たち。

気を抜こうとしても360度が舞台になった今、美しい演技を続けねばならなくなった。

私たちは少し疲れている。

なぜか会えなくなったたくさんの人たち、元気にしているだろうか。

電話をしてみようか。

彼らにも皆にも、こんな朝の時間があるのだろうか。

           ◎ノノ◎
            (・●・)。

 

         「また、お会いしましょ」 2004年8月8日更新


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