アーサおじさんのデジタルエッセイ215
日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進むサラ・ベルナールのことを調べると、頭が混乱する。
見たことも会ったこともない過去の人なのに、惹きつける。全ての資料が幻想を呼ぶ。
サラ・ベルナールは100年前ほどの、フランスの女優だった人だ。
美しい歌声は黄金に喩えられたほどだけれど、芝居のセリフは(当時のやり方と違い)普通に喋ったのだという。
公演のポスターのために、まだ売れないアルフォンス・ミュシャの下絵を「気に入った」と採用している。
ミュシャはそれから、アールヌーボーの巨匠になる。
よく分からないけれど、明治時代末期に中村天風という人が医学・心理学上の課題を解決するべく、紹介状を持ってサラに会うように言われた。
目の前の20代にしか見えない女性(この頃彼女は60代であった)を天風は「サラ」だとは思えなかった。
彼女は、心理学教授を紹介し、そして哲学者カントの自叙伝を読むように奨める。
天風は紹介により、さまざまな確信を得たという。
パリの巨星とされたサラ。誰もが信奉者・虜になった。
それは画家たちの肖像(の熱心さ)を見れば歴然とする。ところがサラ自身は画も描いた。
彫刻家でもあった。私は庭園美術館で、“ロダン”ばりのかなり繊細で大胆なブロンズ像を見て、そのことを知った。
フランスから、一座がアメリカ・ヨーロッパ各地を巡業公演で回る時、同時に自分の彫刻展を開催すると、作品はばんばん売れたのだそうだ。
歴史という、掴みようのない霧のような謎の皿の上にさらに、謎のサラが匂いを放つ。
「また、お会いしましょ」 2004年5月30日更新