アーサーおじさんのデジタルエッセイ202

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第202話 リスと不幸なひと


「栗鼠(リス)」というと、ひとりの不幸な人を思い出す。

鎌倉に私の会社の研修所があって、何日か泊り込みで研修があった。

山の影に当たる敷地に建っているせいで、窓の向こうは樹木と山の斜面である。

年齢に関係なく、かなり先輩にあたる男と同室になった。

その男は話をするたびに「チェッ、ひでーな!」と相槌を打つ。

何もひどい話はないのに、「チェッ、ひでーな」である。

NYの女性が「ワオ!」と反応する癖があるようなものだろうか。

私が自己紹介をしていても、折節で「チェッ、ひでーな」とくる。そんなものか、と諦めた。

私はふと外に動く物を感じて、ベランダの外を眺めた。「あ!」狭い敷地にしつらえた餌台に何匹ものリスが集まっていた。

目の前である。口をモグモグさせ、尻尾を固い蛇のように靡かせていた。私は驚いて、一人で眺めるのが惜しくて彼に声を掛けた。

「見てください。リスですよ!」彼は面倒そうに動かない。「ほら、リスが餌を食べに来てますよ。すごーい!」私は何度も叫んだ。

彼は、ふん、という感じでようやくベランダに立った。

「お、リスじゃねーか。チェッ、ひでーな!」

「随分集まってんなあ。お、エサ食ってんだ!チェッ、ひでーな!」

その人はどう見ても、リス達に感動しているという風であった。



             ◎ノノ◎   
             (・●・)

       「また、お会いしましょ」 2004年3月1日更新


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