夜11時頃、月食があるという。視力も悪くなっていて、眼鏡を掛けていてもくっきりと見えるものではない。覚えている「月」は、夜行の蒸気機関車の窓から見た月だ。
高校の始めの夏、九州から京都にピカソの「ゲルニカ展」を見に行った時だった。勿論クーラーは無い。暑いが、夜は窓を閉める。トンネルに入ると一気に煤煙が吹き込むからだ。目に入るとやっかいだ。フリーズドライコーヒー程もある大きなススだからだ。
寝息をたてている人に囲まれてふと目が醒める。
窓ガラスの奥に月が見える。満月だ。ウサギが耳を曲げて立っている。あの頃の月はくっきりと美しかった。もう僕の視界には戻って来ない映像だ。
月はノスタルジーに良く呼応するようで、そういう想い出を引き込み易い。海は満潮になったり、引き潮になったり、人が狼になったり、交通事故が増えたりするらしい。
地球の影を受けた月は丸い形がうっすらと見えていて、心もとなく浮いていた。太平洋に浮き袋で浮いている人のようでもある。しかしあちらから見れば日食である。
真っ黒な地球が太陽に被さり、その中心に日本がある。
東京の夜景はきらきらしていただろうか?
◎ノノ◎
(・●・)
「月は公共の裸電球である」 2000年7月19日