アーサーおじさんのデジタルエッセイ187

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第187話 不思議なお宅


通勤路の曲がり角に、実に奇妙な家がある。
僕はこの家を、勝手に『水木さんの家』と名付けている。
いつも『水木さんの家』の前を通るたびに、その中を覗きたくてたまらないのだが、決して決して見えないのである。

決して決して豪邸ではない。
むしろちっちゃなあばら家である。
なのに決して建物も間取りも住人も見えない。
敷地は40坪ほどではないだろうか。しかし50坪分ほど、道路に溢れるようにその体毛のような樹木がそそり立ち電線に絡みつつ、家屋を包み込んでいる。


木々は決して剪定などされず、内側に真っ暗な闇を育てている。
これが霊的なバリアになって外部の詮索を遮断している。
玄関すら垣根の切れ目を偲ばせる“洞”の奥に隠れている。
しかしここに住人がいると分かるのは、この巨大なモンブランケーキの形をした小森が“息づいて”いるからである。

朝には木々のわずかな隙間に木造の板葺きの壁と、開けられた引き戸の下部が見える。
夜には葉の隙間から「オレンジ色の裸電球」の光彩がチカッと見える。
そして人のしわぶきが響いてくる。
噂によれば、お年寄り夫婦が住んでいるとのこと。この弧絶感と深い闇が捨てがたいのだろうか。
それとも手が入れられず困り果てての結果であろうか。

前の道路を多くのサラリーマンや小学生が通り過ぎて行くが、その日常からは隔絶している。
もし、樹木を引き倒したら、その古びた空間から、蜥蜴や狢や草履虫、そして我々が蛍光灯を居間に取り込んで以来、忘れてしまっていた、昭和以前の闇がどっと流れ出るのではないだろうか。

             ◎ノノ◎
             (^●^)

         「また、お会いしましょ」 2003年11月23日更新


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