アーサーおじさんのデジタルエッセイ186
日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進む大英博物館はサー・ハンス・スローンの2万点の“ガラクタ”から出発した。
その後、古代中近東地域のコレクションを充実させた考古学者に、マックス・マウロンという人がいる。
奥さんは13歳年上で、名を“アガサ・クリスティ”と言った。
彼女はバツイチ。もと夫のイギリス航空隊の大尉の浮気のせいで苦しんだあげく離婚したのだった。
浮気を知った時、10日間失踪したそうだ。大尉からというより、世間やマスコミから失踪したのだ。
それほど英国で有名だった。
戻ってから彼女は死ぬまで、その失踪のことには触れなかった。
一生の間隠し通すことになる10日間の苦しみの日々に、僕は興味が尽きない。
尽きないと言っても、1926年の英国での世界的な謎では、少しも迫ることができない。
いや違う。出来事は英国で起きているのではなく、人の心で起きているのだ。
彼女は人目を逃れ、ローマのスペイン広場でアイスクリームを嘗めて、ヴェスパで走りまわっていたのだろうか?どこかの記者と恋に落ち、10日間の逢瀬のあと、秘密を誓って別れたのだろうか。
作家が自伝でも触れなかったということ、それが巨大なブラックホールになって僕に迫るのだ。
2年後、メソポタミアを旅行中に、27歳の考古学者マウロンと知り合い、再婚する。そうか、メソポタミアで再会を約束していたのかもしれない。
「あなた、考古学者?今度、いつか会える?」
「無理です、マダム。世間の目があります。それに、私は大英博物館の発掘プロジェクトの副指揮官として、来年からメソポタミアに入り浸りなんです。なんとか実績にしたいんです。
だから、もうロンドンでお会いするなんて出来ません」
「そう、メソポタミア?分かったわ、私も中近東には惹かれる人間だし」
旅行好きのアガサは、大英帝国の力の及ぶところ、何処でも現れる。
おやすい御用である。
「あ、次の旅行はマウロンのいるメソポタミアに行ってみようか。うん、そうしよっと!」
世の中、捨てたものではないのである。
(本エッセイの後半は事実と関係ありません)
「また、お会いしましょ」 2003年11月16日更新