アーサーおじさんのデジタルエッセイ176
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学生がいなくて、おとな達が勉強をしていることが多い。
だからいつものようには騒がしくない。
明るい窓に面した丸テーブルが10個。
数えてみれば、そのうち7個程の席の人間が、明らかに勉強や読書をしている。
最近は各種の認定試験が近いのか、試験勉強の雰囲気である。
私も自分の読み物と必要な辞書を持ってアイスコーヒーをオーダーする。
やっと一つだけ空いているテーブルに座ることが出来た。
おとなりの若い女性がなにかのコピーを読み、線を引き、書き込みをしている。
わき目も振らない。
しかしそぶりが妙だ。
しきりに体を動かしている。
両手を使って腕を叩いたり、胸や肩をなでたりお尻をさすったりしながらぶつぶつ言い、実に忙しい。
横に座った自分としてはちょっと落ち着かない。
う〜ん。
そわそわ・イライラする精神的な病気なのだろうか?たぶん、何か理由があるのだろう。
私は彼女の読んでいるコピーを横目で観察した。
あ!そこに見えたのは表皮を剥がされた直立の人体筋肉図であった。
そしてびっちりと引出線が付けられ文字が埋めこまれている。
筋・骨格・靭帯の解説図である。
そうか、彼女がぶつぶつ言っているのは、「肩甲骨、上腕二頭筋、大胸筋、尺骨、曉骨、背筋、肋間筋、大殿筋、腸骨稜、・・」などだろう。
では、目標の試験はなにか?
医者、看護婦、整体士、正確には分からない。
医学系であることは間違いない。
私は17歳の時、地方都市の古本屋で人体解剖全集の「筋・骨格・靭帯編」を購入したことがある。
店主が驚き、「なんに使うんだ?」と訊いた。
美術デッサンの勉強、と言うと割り引いて売ってくれた。
あれは好きな本の一つだった。
靭帯・筋の名前は今でも良くわからない。
けれど人体と骨の形はほとんど描ける。
目の奥にX線装置を持っているようなものだ。
人の服のなかの動きも見える。
彼女もいずれ人の筋肉が見えるようになるのだろう。
「また、お会いしましょ」 2003年9月7日更新