アーサーおじさんのデジタルエッセイ141
日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進む韓国・北朝鮮では冷たい冬に入る前に、たくさんのキムチを漬け込む。一人あたり50kgとも言うから、家族全員では大変なものだ。これで春が来るまでの食とする。冬は何もかもが凍える。風だけが吹き、全て自然の恵みは途絶えるからだ。
ヨーロッパでも、近代までは同様に、収穫祭には冬が来る前に食材の準備をした。家畜が広場に並べ出され、冬のための畜食となった。肉が塩漬けにされ、内臓を利用した腸詰=ハム、ソーセージが大量に作られ、乾燥した部屋で熟成された。
先週、知り合いから、スペイン製法のサラミをいただいた。スペイン料理の写真集で見るのと同じ形をしていた。油紙かビニールのように見える白っぽい包装は、おそらく腸だろう。
包丁を入れると、断面は赤い大理石のように、成分ごとの色に分かれている。脂肪や筋肉、スジや血液が寄り合って固まっている。
確かサラミは血液を漬け込むのだったのではないか。製法が本物だと、サラミも日本の物とは随分違う。リアルな豚君の豊かさがその中に凝縮されている。
「旅行」というのは人の五感に異文化を持ちこむことだから、こんな風に「本物」を食べることは、一種の旅のようなものである。当分、旅行の機会のない僕には持って来いである。一緒にもらったCAVA(スペイン製法のシェリー酒)と共に、中世ヨーロッパ人の冬に向かう。距離と時間を同時に旅するのだ。
「また、お会いしましょ」 2002年12月15日更新