アーサーおじさんのデジタルエッセイ107

日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進む

第107話 「悪夢」の報酬


僕の近しい友人が、悪夢について、こう語る。

「悪夢は僕をしばしば救ってくれた。そんなことが想像できるか?」友人が言うのはこういうことだ。

かなり長い間、家庭が苦しい時期が続いていて来る日も来る日も、地獄のような日々、怒りに満ち、自殺を考えたり、立ち直ろうと努力したり、そんな時、眠れぬ明け方に今度は、悪夢が彼を襲う。

人間とは思えない暴力が迫り、大勢が寄ってたかって逃げ場のない自分を非難する。

得体の知れないものに食いつかれ血みどろになり、幽霊が纏わり付き体に入り込む。

誰もが恐れる病原体に侵される。

脂汗を掻き、うなされながら目覚めると、今度は地獄の現実が始まる。

ああ、また一日が始まる。

しかし、悪夢から覚めた時だけは、夢から醒めることを望んだことに気がついた。

そうだ、あの夢は自分を現実に送り出す役割をしてくれている。

これ以上有り得ないほど、生命の震えるシナリオを編み出して僕に提供してくれている。

『あの“夢のほうが現実”でなくて良かった』と思えるシナリオ。

どうか、今夜も、呻き声をあげるような悪夢に包まれますように。

と。



            ◎ノノ◎
             (・●・)

        「また、お会いしましょ。」2010年6月5日更新


日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進む