アーサーおじさんのデジタルエッセイ101
日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進む「人間と小鳥はおんなじものだと分かるんです」と、ある会議の席でアルピニストの野口健さんが言っていた。
世界最年少で7大陸の最高峰を制覇した彼は、今度はその山を清掃登山している人だ。
「一面の雪渓の中で、ぽつんと小鳥が死んでいます。それは本当に遠くから分かるんです。その時、あ、人かなあ、と思います。でも小鳥なんです。同じなんです。人でも小鳥でも。あの広い自然中では、ただの"点"なんです。生きているものという意味でおんなじだということが、本当に感じられるんです。」
居合わせた誰もが、しばらくしんと黙っていた。
単純な話の背景に白い広大な雪渓が見えてくる。
空気は黒いほど澄んでいて、肌を刺す。静けさの中で、自分の酸素吸入の息の音がするだけだろうか。
「あ、なんだ小鳥か!」というせりふは浮かばない。
「あ、"ヒト"が死んでいる」と彼は、近寄り、持ち上げ拾う。
その時、大きな担架も必要ではなく、ビニールの袋の底に入る小さな生命であることを知るのだろう。
それは名前を持った小鳥であり、両親と兄弟がいたのだ。
生命は小さな点になることで、はっきりと分かるというのは不思議なものだ。
「また、お会いしましょ。」 2002年3月10日更新