アーサーおじさんのデジタルエッセイ398

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第398 毛羽立つ電車


 何かあったらしく朝のホームが混んでいた。
停車している電車のひとつひとつの扉ごとに、警察官のような制服を着た駅スタッフが、扉から膨らみ出た人間の体や、バッグを押し込んでいる。
まるでタイヤのチューブでも押し込むみたいに。
そうして危険表示の赤ランプをひとつひとつ消していく。
最前列から最後列までランプが消えると、汗を吹きながら青い「カンテラ」を運転席に向けて振り回す。
ゆっくりと動き出す巨大な金属の延べ棒。
みるとあちこちに黒いコートが三角形に飛び出ている。

あわてて殻を閉じたハマグリがその身を舌のように覗かせているのに似ている。
数えると四枚。
次に入ってきた電車も、あちこちに黒い舌を覗かせている。
これも三枚までは数えることができた。
 こうして日本中で、膨大な数の毛羽立った電車が走っているのだろう。
食べきれずに口からはみ出たものは、駅の到着とともに「ウエッ」と吐き出される。
そして再び新たな乗客が口の中にぐうと押し込められる。

             ◎ノノ◎。
             (・●・)

         「また、お会いしましょ」  2008年2月17日更新


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